「マイクロ法人ってやったほうがお得なの?」と疑問に思われる方も多いですが、マイクロ法人は誰にとってもお得ではありません。
マイクロ法人では社会保険料が節約できるのですが、個人事業主の社会保険料は収入によって増減します。
よって「個人事業主で収入が一定以上あって社会保険料が高い」人がマイクロ法人をやる意味があります。
収入がそんなにない人はやっても手間が増えるだけだし、なんなら損になることも…
じゃあ一体いくら以上稼いだらマイクロ法人やっていいわけ?
この記事ではマイクロ法人をやるには個人事業でいくら稼いでいれば良いのかという点について掘り下げて書きたいと思います。
結論だけ先に紹介すると以下のようになります。
- 自力決算の場合:所得220万円以上ならトク
- 決算のみ税理士に(10万円で)依頼する場合:所得300万円以上ならトク
- すべて税理士に(30万円で)依頼する場合:所得500万円以上ならトク
実際にマイクロ法人を運営するには自分の場合の計算をすることが必須になりますので、計算の方法や考える条件について、以下詳しく解説していきます!
是非最後までお読みください!
- 40代後半・独身男
- 大学院修了後一年浪人の後、教員採用試験に合格し18年勤める
- 職場での人間関係や働き方に疑問を感じ、人生のこれからについて考え直す
- 2020年コロナがきっかけで副業を始める、2021年には副業収入6桁超え
- 教員を辞めることを決意、2023年3月に退職、5月には公務員時代の月収を超える
- 現在フリーランスをしながらマイクロ法人2期目
マイクロ法人の作り方完全解説記事はこちら
マイクロ法人の損益分岐点(タイパ・コスパ)の考え方
マイクロ法人の損益分岐点について考えるために基本的なところを確認しましょう。
マイクロ法人の特徴は簡単に以下のようにまとめられます。
- ある程度稼いでいる個人事業主は社会保険料が高額
- 個人事業とは別に「あまり稼がない法人」を作ってそこで社会保険料を払えば安くなる
【個人事業主1本で払う社会保険料】ー【マイクロ法人で払う社会保険料】がプラスになって節約が出来た額が社会保険料の節約額になります(他にもメリットはあるのですが、それはここでは置いておきます)。
ただしマイクロ法人を運営するには法人税や会計ソフト代などの維持費がかかります。
よってお金の損得だけで考えるなら、「マイクロ法人の維持費<マイクロ法人で節約できた額」になればマイクロ法人をやる意味が出てきますね。
マイクロ法人の維持費はいくらかかる?
マイクロ法人の維持費は、会計を自分でやるか、税理士に依頼するかで大きく変わってきますが、だいたい以下のようになります。
↓自力決算の場合(設立もセルフ)
- 設立と1年目:173,000円
- 2年目以降:116,760円
↓決算のみ税理士に任せる場合(設立はセルフ)
- 設立と1年目:251,540円
- 2年目以降:205,760円
↓税理士に会計をすべて任せる場合(設立はセルフ)
- 設立と1年目:439,600円
- 2年目以降:370,000円
これはマイクロ法人を設立しなければかからなかった、純粋にマイクロ法人だけにかかる費用です。
マイクロ法人の維持費については以下の記事で詳しく解説しています。
維持費より1円でも節約できればいいわけじゃない
社会保険料の節約額が1円でも維持費を上回ったらやったほうがいいの?
前述したとおり、お金の面だけで言えば「マイクロ法人の維持費<マイクロ法人で節約できた額」となればいいのですが、それで年間5,000円得したとしても法人運営の手間なども考慮にいれる必要があります。
1年間法人運営して5,000円ってのはちょっと割に合いませんよね…
実際にマイクロ法人の損得の計算では、以下の考慮事項を加味する必要があります。
考慮①マイクロ法人運営の手間
マイクロ法人を運営するには、経済的コストの他にも、以下のような手間のコストが発生します。
- 個人事業主とは別に会計ソフトで記帳する(会計が2つになる)
- 給与の振込処理
- 年2回の算定基礎届の提出
- 年末調整の書類作成と提出
- 決算資料の作成と提出
これらの手間が発生するので、マイクロ法人を作ることによって得する額がこの手間に見合っているのかどうかを考える必要もあります。
超シンプルな法人運営でこれらの手間を時間でいうとだいたい10時間くらい(慣れないともっとかかるでしょう…)。年収400万円の人の時給が2,000円程度ですから、それで考えると20,000円分のコストですね。
手間に比べて得する金額が少なきゃやる意味がないということか…
税理士に任せれば任せるほどこのコスト自体は少なくなりますけどね。
考慮②役員報酬額によっては所得税のメリットもある
マイクロ法人では社会保険料が最安であるというメリット以外にも「給与所得控除」で年間550,000円までの所得にかかる税金が0にできるというメリットもあります。
マイクロ法人で稼いだお金を役員報酬として自分に振り込むことでその分は所得税を払わなくて済む、というメリットです。
フリーランス1本の人に比べて550,000円分の所得控除が増えるってことね。
普通にこの報酬を個人で得ていたとしたら所得税5%〜20%の範囲で考えると22,500円〜110,000円程度の所得税がかかるので、そのくらいの節税効果がありますね。
このメリットを享受するにはマイクロ法人での収入の調整が結構難しいデス…。
考慮③:扶養に入れられることによる節約も大きい
マイクロ法人を設立すると家族を扶養に入れることもできます。
個人事業主が入る国民健康保険には扶養の概念がないため、扶養している家族がいてもそれぞれに国民健康保険料を払わなければいけなくなります。
公務員は扶養あるから一人分でよかったけど、扶養がないと子供の分まで国民健康保険料払うことになるのか…。
働いていない親と同居している場合や、子供がいる場合などはマイクロ法人を作ることによる社会保険料節約の効果が圧倒的に高くなります。
いくら稼げば誰でもマイクロ法人で得するか考えてみることにします
今回の記事では「最低これだけ稼いでいれば誰でもマイクロ法人で損することはない」という額を算出したいと思います。
上の考慮①「マイクロ法人運営の手間」は計算に入れますが、考慮②「所得税メリット」と考慮③「扶養のメリット」は計算に入れないことにします。
役員報酬を最低限の額に押さえて所得税メリットを無しにする人も結構多いです(自分もしている)。
そうすれば「どんな人でもこれだけ稼げてればマイクロ法人やっていいよね」という所得額を割り出すことができます。
マイクロ法人の損益分岐点(コスパ・タイパ)を計算してみる
社会保険料をいくら節約できればマイクロ法人やっていい?
というわけで考慮①「手間コスト」だけを計算に入れて、「★社会保険料をいくら節約できればいい?」の額を割り出したのが以下です。
運営タイプ | マイクロ法人運営コスト | 運営手間コスト | ★社会保険料をいくら節約できればいい? |
---|---|---|---|
全て自力 | 116,760円 | 20,000円(+) | 136,760円 |
決算のみ税理士 | 205,760円 | 10,000円(+)※自力の手間の半分とする | 215,760円 |
すべて税理士 | 370,000円 | 5,000円(+)※会計の手間はない | 375,000円 |
この額より社会保険料の節約額が多くなるくらい稼いでいる人がマイクロ法人GO!ってことになるわけね。
個人事業でいくら稼いでる人がこの節約額を超えるのかしら?
次で簡単に試算してみましょう。
社会保険料の節約額を計算してみよう
- 個人事業主のみのフリーランス
- 個人事業とマイクロ法人の二刀流
この二人間の社会保険料を比べてみて、「☆社会保険料節約額」を割り出します。この差が先ほどの金額(★社会保険料をいくら節約できればいい?)を上回れば、手間も考慮に入れた上でマイクロ法人運営の方がメリットがあると言うことができます。
どのくらい個人事業で稼ぐとマイクロ法人を設立するメリットが出てくるのか見ていきましょう。
健康保険の額の差が決め手になる
社会保険といえば、公的医療保険と公的年金の2種類があり、フリーランスの社会保険とマイクロ法人の社会保険は以下のとおり名前が違っています。
公的医療保険 | 公的年金 | |
---|---|---|
個人事業主 | 国民健康保険 | 国民年金 |
マイクロ法人の役員 | 健康保険 | 厚生年金 |
公的年金である国民年金は16,000円程度。マイクロ法人で支払う厚生年金も16,000円程度とほぼ金額は変わりません。
マイクロ法人が社会保険料の節約になる、というのは実は社会保険料の中でも公的医療保険である「健康保険料」に差が出るからなんです。
稼げば稼ぐほど高くなる国民健康保険がマイクロ法人に入るといくら安くなるのかってところが計算の決め手なんですね。
社会保険料によって所得税が控除されるのも計算にいれなきゃ…
社会保険料がこれだけ節約になった!とはいえ、その分をそのまま節約額に算入すると正確ではありません。
社会保険料は「社会保険料控除」という「所得控除」に入るので、高い社会保険料を納めれば納めるほど、その分所得税が安くなる一面があります。
たとえ20万円社会保険料の節約ができたとしても所得控除加味すると、節約効果は16万〜19万円くらいには薄まるってことね。
所得控除を加味したマイクロ法人の実質健康保険料
マイクロ法人で社会保険料を最安に押さえた場合の健康保険料は約6,000円(39歳以下)で年間約72,000円となります。
40歳〜64歳の人は介護保険料もかかりますがこの記事では無視しておきます。
社会保険料控除は個人負担分の約2,900円で年34,800円、所得税率が5%なら1,700円、10%なら3,400円、20%程度でも6,800円程度の税金が減ります。
支払う健康保険料から社会保険料控除によって安くなる税金を引いて「実質の健康保険料」を出すとするなら、マイクロ法人の実質健康保険料は年間65,200円〜70,300円くらいになります。
マイクロ法人はフリーランスと比べていくら節約できる?
個人事業主の国民健康保険料は前年の所得によって決まります(そのため公務員退職後の1年はかなり高いですね)。
単身世帯の1人分(39歳以下)で所得額に応じた国民健康保険料の額は以下の表にしました。
さらにそこから先ほど述べた社会保険料控除も加味した実質の健康保険料を出しています。
そしてさらにそこからマイクロ法人の健康保険料との差を出して「☆マイクロ法人でいくら得になるか」(フリーランスと比べていくら節約できるか)を概算したのが以下の表です。
前年の年間所得額 | 国民健康保険料 | フリーランス実質健康保険料 | ☆マイクロ法人でいくら得になるか |
---|---|---|---|
50万円 | 66,813円 | 66,813円 | −3,487円(損) |
100万円 | 114,763円 | 114,763円 | 44,463円 |
150万円 | 162,713円 | 154,578円 | 84,278円 |
200万円 | 210,663円 | 200,130円 | 129,830円 |
220万円 | 229,843円 | 218,350円 | 148,050円 |
250万円 | 258,613円 | 245,682円 | 175,382円 |
300万円 | 306,563円 | 291,235円 | 220,935円 |
400万円 | 402,463円 | 362,217円 | 293,617円 |
450万円 | 450,413円 | 405,371円 | 336,771円 |
500万円 | 498,363円 | 448,527円 | 379,927円 |
600万円 | 594,263円 | 475,410円 | 410,210円 |
700万円 | 690,163円 | 552,130円 | 486,930円 |
- 「控除を加味した実質の健康保険料」の控除は、基礎控除・青色申告特別控除・社会保険控除のみを適用させて個人事業主の実質負担する健康保険料を計算しています。
- 「☆マイクロ法人でいくら特になるか」は「フリーランス実質健康保険料」ー「マイクロ法人の実質健康保険料」の差を所得税率に合わせて計算しています。
この表とこちら計算した「★社会保険料をいくら節約できればいい?」の額とを照らし合わせれば、損益分岐点がようやくわかります!
【結論】マイクロ法人の損益分岐点
上の表「☆マイクロ法人実質額との差(社会保険料節約額)」と前述の「★社会保険料をいくら節約できればGO?」とを比べてみると結果が出ます。
↓マイクロ法人のコストがこうでしたね。
運営タイプ | マイクロ法人運営コスト | 運営手間コスト | ★社会保険料をいくら節約できればGO? |
---|---|---|---|
自力決算 | 116,760円 | 20,000円(+) | 136,760円 |
決算のみ税理士 | 205,760円 | 10,000円(+)※自力の手間の半分とする | 215,760円 |
すべて税理士 | 370,000円 | 5,000円(+)※会計の手間はない | 375,000円 |
所得(収入−経費)がいくら以上あれば、マイクロ法人を作った方がいいのかという結論は以下になります。
- 自力決算の場合:所得220万円以上ならトク
- 決算のみ税理士に(10万円で)依頼する場合:所得300万円以上ならトク
- すべて税理士に(30万円で)依頼する場合:所得500万円以上ならトク
上の表で、★を☆が超える所得のラインがこれになるってことね。
繰り返しになりますが、これは以下のような条件で試算しています。
- 39歳以下(介護保険料がないので社会保険料節約メリットは小さい)
- 単身者(扶養を使用しないので社会保険料メリットは小さい)
- 役員報酬は最低額の12,000円程度に設定(給与所得控除を活かさない)
「誰がやってもマイクロ法人運営して特になる所得金額っていくらなの?」という金額で試算しました。
上の金額を稼いでいるならどんなタイプの人でもマイクロ法人を設立すると得ってことに計算上なるわね。
役員報酬を45,000円に設定したり、40歳以上の方だったり、扶養を使う人はもっと節約メリットが大きくなるので、上の結論より少ない所得でもマイクロ法人を運営した方が得になりますので試算してみてください。
マイクロ法人の維持費をもっと安くする裏ワザをこっそり教えます→こちらから
まとめ 自力決算をするなら簿記を、税理士に任せるなら比較を
紹介したように、決算が自力か税理士かによってマイクロ法人の運営コストはかなり変わってきます。
それによってマイクロ法人を運営することがトータル得かどうかの所得額も変わってくるので、自分の場合での試算はマストですね。
自力決算をやってみたいけど、自分で大丈夫かしら…。
マイクロ法人の年間の運営をするには基本的な簿記知識は必須です。
専門的な知識は必要なく簡単な仕訳や決算書の仕組みがわかっていればOK。
自力決算にチャレンジする場合は簿記3級を本やYouTubeで学んでみるのも良いと思います。
また、以下の記事では個人事業主の記帳の仕方(マイクロ法人の記帳も同じ)、マイクロ法人の年末調整の処理、マイクロ法人の決算方法についても解説していますので、それをざっと目を通して、
ダメだ…、私にはコレ絶対無理。
と感じるならば、税理士に依頼するのも一案です。
記帳の方法
マイクロ法人の年末調整処理
マイクロ法人の決算の方法
例えば、税理士に30万円払ってすべてお願いしてでもマイクロ法人を作った方がいい人の所得は500万円以上という結論になりました。このレベルの稼ぎの人となると自分の時給換算もかなり高いでしょうからチマチマ自分で会計処理なんかやらずに税理士にお願いする価値はコスパから考えて十分にありそうですよね。
自分で会計やってるくらいならその分稼いだ方がいいもんね…私もそんなこと言ってみたい。
でも税理士に依頼ってどうやって探せばいいの?ぼったくられたらヤだな…
マイクロ法人の税理士は知り合いやツテを頼るより、自分が考える条件にマッチする税理士さんをネットで探すのがおすすめです。
マイクロ法人なら遠くの税理士さんでも問題ありませんしね。
税理士ドットコムという自分の提示する条件に合う税理士をピックアップして何度でも無料で紹介してくれるサービス(もちろん法人もOK)があってこれが評判がよく便利です。
契約までは税理士と直接やり取りはしないから、断るのに気が引ける…とかもないですね。
サービスを使う料金は依頼者側は完全無料なので、税理士を検討している方は早めに登録・相談をし、条件に合う税理士さんを少し時間をかけて探すのがポイント。
同じく完全無料で税理士との契約が成立したときにはお祝い金が出る、税理士紹介ネットワークもおすすめ。
自分から数箇所連絡して見積もり合わせるより、断然ラクな方法だね。
マイクロ法人設立の際の参考になれば幸いです。今回は以上です!
マイクロ法人の作り方完全解説記事はこちら
コメント
コメント一覧 (2件)
以前、リベのチャットで質問した者です。本当に有益な情報をありがとうございます。
今年からマイクロ法人を立ち上げた私は、初めての年末調整、個人、法人での確定申告を今控えてビクビクしているところです。
コギトさんのブログに穴が開くくらい見ながら、準備を進めております。
法人での収益は中々出ず、加えて個人事業での収益も少ないので、アルバイトをして生計を立てています。私44歳、妻44歳、息子13歳、娘10歳なので、マイクロ法人設立することで受けられるメリットは大きと思うのですが、確定申告して答え合わせが終わるまで不安です。
引き続き参考にさせて頂きます。
参考にしていただきありがとうございます!ご家族も扶養なさり、かつアルバイトもしているということで結構複雑な形態かと思いますが、個人事業が育ってくれば間違いなくお得になると思います。
お互い頑張りましょう!